お猿の戯言 homosapiensaru's babble
2010年3月30日[火] トランジットの時間を使ってゴッホ美術館へ
ポルトガルを出て、アムステルダムにトランジットのため立ち寄る。
数時間待たなければならず、みんなでゴッホ美術館へ行くことにした。
街中に入ると、とてもきれいでびっくり!オランダの街はこんなにも美しかったのか!
淑女のようなエレガントな女性タクシードライバーに連れられて、ゴッホ美術館へやってきた。
この旅行を組んだときの時期の悪さから中継の悪いフライトしかなく、渋々オランダ廻りとなったのだが、いざこうしてアムステルダムの街に入ってみると、逆に神の思し召しのように思えて来るから人はいい加減なものだ。
ゴッホ美術館は、平日にも関わらずとても混んでいる。チケット売り場の前には長蛇の列ができている。立派な美術館で、ゴッホだけでなく、それ以外の企画展のスペースも充実している。ちょうどゴーギャンの企画展を開催していた。
去年、日本で行われたゴーギャン展を観たときに、ゴーギャンはもういいやなんて思ったが、ここに数点いい絵があって眼から鱗が…。
また別の会場に、ゴッホ以外の絵画もたくさん展示されていて、その中に大好きなオディロン・ルドンの作品があった。仏陀を描いた絵で、とても素晴らしかった。こんなところでルドンに遭遇できるなんて、なんという幸運なことよ!感謝!
作品を堪能した後、オランダで土産というのもどうなのよという感じだが、ミュージアムショップでお土産を買う。
数時間のオランダを満喫して、空港へ戻る。いよいよ成田へ向けて離陸だ!
自分から動けば、向こうからも何かがやって来る。
アクションすることだ。大学の用事でやっては来ているが、それだけの成果ではなく、自分自身のことの答えもいろいろと用意されていた。答えは、旅先という特別な場所に限らず、日常のそこかしこに散りばめられている訳だが、こうして特別な時間や空間の中ではそれも見つけやすいのかもしれない。いい旅だった。
2010年3月29日[月] ポルト大学へ
朝、早く眼が覚める。雨だ。
大事な打ち合わせの日にポルトガルでは珍しく雨だなんてなんとなく先行きに不安が過る。
朝食をとり、身支度を整えていると雨は上がり、陽が射してきた。よかった。
今日は、午前中にポルト大学で10月のイベントの打ち合わせがあったが、話はスムースに進んだ。
朝の不安もすっかり晴れて、いよいよリスボンへ帰る時間が近づいてきた。
大使館の宮川書記官が、ポルトのカンパニャン駅の近くの「蛸の天ぷらごはん」が美味いということなので、昼飯に立ち寄る。
なるほど!これは美味い!天ぷらも、見た感じがお赤飯のような蛸ごはんもサイコ〜!
メニューに日本語で「たこも天ぷら」と書いてあって和む。
さて、リスボンに戻ると、夜は大使館の方々と最後の晩餐だ。
海辺の近くのお洒落なレストランだ。
美術館へ移動するときにタクシーからこの建物を見ていた。ショップだか、レストランだかわからないけれどなんだかいい感じだなとマーキングしていたところだったので驚いた。念いは通じるのだ。
ここのポル飯は洗練された味だ。また、ビュッフェスタイルなので自分に合った量だけ、しかも幾種類も味わうことができるのがいい。街中で頼むと一品一品の量が半端なく多いのでこれはうれしい。食後に出た、アーモンドのお酒は逸品だった。
新井公使とのお話しも面白く、名残惜しかったが明日は朝が早い。
ついに帰国だ。5:30には起床して空港へ向わねばならない。
また、10月に再会することをお約束して別れる。
今回は、前回とは違って、事がスムースに運び気持ち良く帰国できるのがうれしい。
美術館を回るなど、自分の時間も持てたことがうれしかった。
ポルトガルの印象がまた違ったものになった。
2010年3月28日[日] ポルトでオフ
夕べは、またドウロ川岸辺の夜景の名所でポル飯。
ラムが美味かった!バカリャーのコロッケも!
という訳で、毎晩ワインを呑んじゃ、ポル飯に食らいついている。
食事がおいしいというのは旅としては最高ですね。
僕は、特にリゾットがお気に入り!シーフードか鮟鱇!それとやっぱりジャガイモがうまし!
宿泊しているホテルに隣接した何でもな〜いひなびたレストランで期待せず注文したシーフード・リゾットが、美味かったのなんのって(まぁ、でもカニかま入れなくてもね…折角ちゃんと蟹が入ってるんだから)!
さて、日曜日で仕事先のポルト大学もお休みという訳で今日は一日オフ!
ゆっくり寝てから、タクシーで近代美術館へ向う。サンデー・モーニングは入場料フリーだ。
美術館の造りそのものには満足だけれど、展示内容が面白くなかった。残念!その分と言っちゃ何だけど、ミュージアムショップで画集をしばらく眺め、またタクシーで、今度はソアーレス・ドス・レイス国立美術館へ。ポルトガルで最古の美術館だそうだ。こちらは空間も含めてNGでした。南蛮屏風があったが、リスボンの国立古美術館にあった方が断然いい。ちょっと気落ちして美術館を後にする。ここからは歩きだ。ドウロ川の方へ降りて、サン・フランシスコ教会を経てホテルまで歩いて帰る。
途中、観光客など一人も通らなそうな路地裏の家々の壁やドアの古びた佇まいに魅せられて剥落の美を激写しているうちにサン・フランシスコ教会まで辿り着いた。
サン・フランシスコ教会のあのキンキラキンの装飾は見応えがある。しかし、どこかキッチュであり、荘厳とか崇高といった宇宙を感じるような装置にはなっていないなぁと感じた。教会内に流れていたチャント(恐らくグレゴリオ聖歌)が心に沁みてよかった。眼からよりも耳から宇宙を感じた。
教会から夜景の綺麗なドン・ルイス1世橋付近に更に降りていき、昼間の雰囲気を楽しんだ。昼間も活気がある。その後、サン・ベント駅(構内がポルトガル・タイルで装飾されていて有名)を目指し、更にその向こう側のホテルまで歩いた。ドウロ川からホテルまでは上り坂なのでいい運動になった。お店は日曜日なのでほとんどがお休みで、土産を買うのはまた次の機会だ。
何だかんだタイミングを逃し、結局ホテルの隣のショボイレストランでようやくランチにありつく。先にも書いたようにここのシーフード・リゾットが予想に反して美味だった!
一寝入りして、夕食にみんなで出かけた。ホテルのお薦めレストランだ。バカリャーが上品でいい。
ワインでいい気持ちになっていると、一枚の絵を持って我々のテーブルに近づく若いポルトガル人。持っているその絵をよく見ると、自分が描かれている。この画学生(?)いつの間にやら僕の似顔絵を描いていたのだ。似ているかどうかと言えば、まぁなんとか?ってところか…。どうも素直に手放しで納得できない感じなのだ。
何か言っている…。
やはりこの絵を買えというのだ。「10ユーロ!」だという。「ノー!」と言うと、すぐさま「5ユーロ!」と半額になる!それでも渋っているとそれ以上の交渉はしてこなかった。
メンバーが6人もいるのになぜ自分を選んだのか?選ばれたことをもっと素直に受け入れればよかった。何しろここは日本から遠い異国の地なのだから。時間が経つほど、旅の思い出としてもらっておけばよかったなぁと後悔の念でいっぱいになっている。
さて、さて、ポルトの夜は更ける。
2010年3月27日[土] リスボンからポルトへ移動
列車で移動する。
三時間ほどで目的地に到着するが、車窓に広がる田園風景は見ているだけで飽きない。
東北芸術工科大学へ通っていた頃、つばさ(山形新幹線の通称)が、仙台〜山形間を走る際の車窓から見える景色とイメージは重なる。
ちょうど同じ季節だ。
東北の長い冬が明け、自分の季節の到来が愛おしいほど待ち遠しかった春の女神は、少し押さえ気味ながらも、それでも美しい色彩を風景の中に編み込んで行く。まるで大地に置かれた機織りを前にして、上等のタペストリーを丁寧に拵えていくようだ。織られた布は風に乗り、長〜い長〜い絨毯となってどこまでも敷き詰められて行く。
冬の間、光は地中奥深く色彩となって染み込んでいる。それが暖かくなるとにわかに溶け出して、ほのかに光りながら大地のカーペットに彩りを与えていく。
春のその風景にいつも魅せられていた。その色彩に遊んでいた。
ポルトに到着する直前には、大西洋に陽が沈み、あたりは幻想的な夕焼けに包まれた。
自然は、常に私たちに何かを与えてくれる。
それをどう享受できるかだ。
ポルトへ移動する前に、グルベンキアン美術館に足を運ぶ。
エジプトやイスラムの美術に魅せられたが、日本のコーナーにあった印籠が眼を見張った。
蛇をあしらった印籠と栗鼠をあしらった印籠の二つが特に味わい深かった。この美術館には、ルネ・ラリックの部屋が別にあり、そこにちょうど蛇をあしらった作品があって、比較すると面白い。ラリックは時代的にも日本の美術に傾倒している作家ではあるが、こうして同じモチーフを扱っている作品を目の当たりにすると当時のジャポニスムの影響が伺えて興味深い。この美術館は、また水辺のある庭が素敵だ。レストランのテラスが庭園に張り出しており、気持ちよくランチができる。
2010年3月26日[金] 自由時間が降ってきた!
さぼっていた一ヶ月の間に、大学の行事としては、卒業制作展、卒業研修旅行、卒業式やらといろいろと重要なものがあった。
研究室の4年生たちが卒業前に呑もうということになり、海外出張を控えて忙しい中、呑み会の席に顔を出すと、それがサプライズ仕込みで、花束と一冊の本が贈られた。うれしいじゃないですか!!
その本は、卒業する4年生たちが「谷口広樹」をテーマに絵を描き、その作品とひとりひとりのコメントが一冊の作品集としてまとめられ、しっかりと製本されているのだ。これは、感動でした。ありがとう(感涙)!大切にします。
ポルトガル出張も三日目だ。
前日の打ち合わせが順調に行き、今日はオフ日となった。
昨年10月のときには、こうした時間が一切持てずにやや辛い思いをしたものだ。精神的に癒される個人的な時間が持てずに難儀をしたのだが、今回の出張では、いきなりこうした時間をいただけることとなった。
早速、美術館へ向うことにした。前回も訪ねているがやはり一人でゆっくり観るのがいい。国立古美術館とベラルド美術館に足を運ぶ。
ガイドブックを見たら、国立古美術館になんと!ヒエロニムス・ボッシュの有名な「聖アントニオの誘惑」があるとあった。前回見逃していたのだ。こうして本物を目の当たりにしてしみじみ鑑賞させていただくとよくわかるが、ボッシュは自分にとって別格である!こうして出会わしていただいたことに感謝だ。堪能〜。いやぁ〜面白い!
この美術館には、南蛮屏風が三隻(せき)ある。三つとも四曲一隻(せき)の作りで、どれも素晴らしい屏風だが、特にその内の二つがいい。こういうものに触れると日本人の絵の上手さがぐっぐっと迫ってくる。どうだぁ、ほらほらぁ〜と鋭利なナイフを突きつけられる感じがする。脂汗が全身から滲みだしてくる。これをかわせないと絵描きの顔をしていられないと真剣にヤバさを感じてしまう。観とれながら「ああ、こういうものを模写しなくては!」と真剣に思ったものだ。自分が日本人だからということは当然あるにしろ、この格別に優れた表現を見逃す手は無い。この場でスケッチブックを取り出してそうしたくても時間がない。ムズムズしてくる。そんなもやもやした気持ちでミュージアムショップに行くと、その屏風だけを扱った画集があった!もちろん即購入した。日本に帰ったら模写するぞ〜と胸に誓う。たいてい人は、画集のようなものを手元に置いてしまうとそれだけで満足してしまいそこで終わってしまうということがよくある。だいじょうぶかぁ、タニグチィ〜?と自分を疑う。
画集を手にし、気持ちを落ち着かせると続いてベラルド美術館にタクシー(安い!)で向う。ベレン文化センターの敷地内にある大きな美術館だ。
ここは入場料がフリーだ。ちょうどロバート・ロンゴの展覧会をやっていたが、あの大きな作品群を持ってくるだけでも相当のお金が掛かるだろうに。他にも大きな企画展が三つも同時に開催されているのにフリーだ。ふ〜む。
ロバート・ロンゴはまとめて観たことがなかったのでよかったが、今の自分にとってはもはや何の感動も刺激もなかった。
もう一人、ポルトガルの流行画家ジョアナ・デ・ヴァスコンセロス(Joana de Vasconcellos)の展覧会が開催されていたが、こちらはいくつか興味深いものがあった。私の研究室に似たような表現を追求している者がいるが、今度会ったら、「世界は凄いぞ!」と肩を叩いてやろう。
昨年同じ場所を訪ねているのに、今回また新たな感動に浴している。美術は面白い。
2010年3月24日[水] 再びポルトガルへ
最後のダイアリーをUPしてからもう一ヶ月以上が過ぎてしまった。
忙しくなると、自分の日常が崩れて行く。
そんな中でも、見たいと思う展覧会にはかろうじて顔を出すようには最低しているが、この忙しさなんとかせねば…。
横浜美術館の束芋に行った。これはちょっと物足りなかったなぁ。方法論にはうなづけたものの、期待はずれだった。どうしても鴻池朋子と比較してしまったが、ややパワー不足か…。何もエネルギッシュなパワーに満ちあふれる必要は全くないが、自分の意識が別の場所へ運ばれなかった。彼女がまだ京都造形芸術大学の学生だった頃、私の年に一度の授業で出会ったが面白い子だった。彼女の活躍を耳にしてなるほどなぁと思ったものだ。
長谷川等伯展にも足を運び、VOCA展も覗いた。
長谷川等伯展は、目玉の松林図屏風の観せ方が出光美術館のときの方が断然面白かった。やはり若い頃の作品は固いなぁ。伊藤若冲の仕事もそうだったが、仏画あたりは特にガチガチでこれじゃぁ救われないなぁと感じたが、ああいった仕事を個人の歴史の中で遂行しているかどうかが重要なことなので、そこはもう頭が下がるのみだ。自分も仏画に挑戦しなくてはいけないなぁ。
VOCAは、正直、毎年よくわからない。
もちろん好きだなぁという作品はいつも数点あるが、全体的なことの評価に関しては関知しないことにしている。
最近、展覧会に出かけてよく思うことは、感動したいなぁということ。刺激はよくいただくのだけれど、感動はなかなかいただけない。感動指数というものが宇宙のなかで占める割合がそんなものですからと言われればまぁそうかもしれないなとは思うのだが…感動を求めてしまう私は青二才なのか?およそ感動などということは青臭いものなのか?
今、また大学の仕事でポルトガルに来ている。この続きはまた後日、UPしたいと思う。